単機格闘戦教本
text by Hanzo
April 2014

当テキストの初稿は1999年頃で、AH 343ku時代に書いたものです。
今回WarThunderのHPを立ち上げるにあたって加筆のうえ体裁を整えました。

 

                       

 戦闘機同士の1対1の格闘戦を考察します。

空戦場で勝ち残るために、1対1の格闘戦の技倆は「必須」とされるものではありません。

むしろ、的確な状況判断力や射撃技術のほうが、はるかに重要でしょう。

ただ、一撃離脱や編隊空戦に加え、格闘戦も得意ということになれば、色々な状況に適応でき、行動範囲が広がり、なによりゲームとしての楽しさが倍増します。

格闘戦の技術には、空戦機動のエッセンスが詰まっているので、格闘戦の技倆が上がれば、その分、味方とも、より効果的に連携できるようになると思います。

というのも、1対1の格闘戦にも、エネルギー空戦、追尾機動、逆転機動など編隊空戦で重視される技術が要求されますし、定石といえる機動には、技倆向上のヒントが隠されているからです。

このテキストは、格闘戦の定石や考え方を、シム初級者~中級者の方々にお伝えしようというものです。

三次元の空中戦を、言葉で説明するため、いろいろ理解しにくい点があると思います。

また、自分自身、研究の途中で整理がついていないものもあります。

はなはだ不完全な内容ですが、これを読まれた方の助けに少しでもなれば幸いです。


同位戦

                       

考察では、完全な同位戦を素材にします。


完全な同位戦とは、両者同一装備の同一機体を使用し、同高度、同速度でお互いが向かい合って開始される戦いです。

WarThunderのイベントなどで行われる試合は、完全な同位戦がほとんどです。

同位戦は特殊な戦いではありますが、技倆の差、戦術の良し悪しが結果に直結するので、戦術研究をするには大変都合が良いです。

試合形式のイベントでは、1対1の同位空戦について、いろいろルールが定められている場合があります。

大きくは2点で、使用する機体、燃料・武装などの基礎的な部分と、試合開始直後から最初の交差に至るまでの飛び方に関するものです。

飛び方に関するルールは、出現後~最初の交差まで、高度や針路の変更を許さないものと、自由とするものの二通りあります。

高度針路変更不可のルールでは、水平飛行で至近距離にて交差し、交差直後(真横を通り過ぎた瞬間)に、旋回開始が許されるというものです。

また、ほとんどの場合、最初の交差では射撃が禁止されています。この射撃禁止規定をコールドマージ(cold merge)と呼びます。

WarThunderの公式イベント、グラディエイタートーナメントにおける1対1形式の試合は、コールドマージで、高度変更自由、針路は相手位置に対し左右最大45度のオフセット角を取ることが許されています。(2014レギュレーション英語)

WarThunderでは、このグラディエイタートーナメントのルールが、おそらくもっともポピュラーと思われます。また、ちょうど、WarThunderの「Custom Event」のDuelingマップが、高度1,200mで敵味方正対して出現するという同位空戦用の設定になっているので、以後、このマップの設定(難易度はシムバトル、燃料・弾薬消費の制限有)とグラディエイタートーナメントのルールを前提として考察を進めることにします。


初 期 機 動

空中に出現すると、真正面に相手が見えるはずです。相手もまったく同様に、こちらを真正面に捉えています。
距離はおおむね3kmといったところでしょうか。まっすぐ飛べば、15秒程度で交差します。

同位で向き合ったとき、一番最初に起こす行動を「初期機動」と呼ぶことにします。
言わば相撲の立ち合いですね。

同位空戦は初期機動の良し悪しがその後の戦闘の8割を決めると言っても過言ではありません。

基礎的な初期機動方法を見ていき、バリエーションを考察してみましょう。

以下図では青が自機、赤が敵機です。真横から見ています。


基 礎 編


ループ・インメルマンターン

お互いが、ほぼ同高度、水平飛行で交差に入り、交差直前で相手に向かって上昇旋回したときの状態です。

上昇系の機動であるループ、あるいはインメルマンターンは、速度エネルギーを位置エネルギーに変換しますので、エネルギーメンテナンスの理屈にかなっている合理的な機動です。

また、少々後方視界のきかない機体であっても、上昇旋回の開始直後に、後上方視界で相手の動きを確認できるメリットもあります。

相手の動きをすばやくチェックすることは非常に重要です。ループ系の機動は動きがシンプルなので、交差直後の相手の位置を直感的に把握しやすく、見失うリスクが低いというメリットもあります。

同位空戦が前提なので、図のように相手が同じ機動をとれば、2回目の交差は、頂点付近でお互い譲らずの態勢です。

コールドマージは最初の交差だけなので、ヘッドオンショットの応酬ということになるかもしれません。

相手よりスティックの引きが弱いと、2回目の交差で相手に食い込まれることになります。


引き起しのタイミング

同高度反航で交差し、互いにループ・インメンルマンの初期機動をとるとしたら、どのタイミングで引き起しを始めるのがベストでしょうか。

交差の瞬間に引き起こすことを基準にタイミングを考えてみます。

タイミングを遅くした場合

こちら(青線)の引き起こしのタイミングをやや遅くして場合を見てみましょう。
相手は、お互いの交差の瞬間に引き起こしを始めるとします。
スティックの引き具合は両者同じ(旋回時間・旋回半径が同じ)ものとします。

当然ですが、旋回を始めるのが遅いので、こちらが相手に機首を向ける前に、相手は回りこんできます。

エネルギー的には多少有利でしょうが、位置関係は明らかに不利で、タイミングが遅れるのは非常にまずいことがわかります。

タイミングを早めた場合

今度は、引き起こしのタイミングを早めてみます。
相手は、こちらの動きをみて引き起こしを始めるとします。
スティックの引き加減の強さは、最大で両者同じ、相手は調整のため緩く引くことも可とします。

こちらが旋回を始めると、相手はこちらに追従するように動いてきます。
追従するのに 特にテクニックが必要なわけではなく、こちらの動きに合わせてまっすぐ追いかけるだけです。

交差前に引き起こすと、相手に背後に取りついてもらうようなもので、やすやすと食い込まれてしまいます。
図のようなタイミングで引き起こしをかけるのは、悪手の典型といえるでしょう。

ベストタイミング

上で見てきたとおり、引き起こしのタイミングは、交差より遅くても、早すぎても不利になることがわかりました。

ただし、そのちょうど中間である「交差の瞬間に引き起こす」のが最良というわけではないようです。

なぜなら、交差より遅くした場合と、早めた場合のそれぞれ、不利になる理由が微妙に違うからです。

この理由を逆説的に捉えて、ベストのタイミングを考えれば、

・相手がこちらの動きをみて追従できない程度に
・相手より早く(=相手はこちらより遅い)引き起こしをかける。

というのが最良ということにならないでしょうか。

そしてそのタイミングは、相手が反応しにくい交差直前、具体的には交差前50~100m程度になると考えます。


 

吊り上げ
Out Climb

交差直前に上昇し、相手の機動をすばやく確認します。

相手が同様に上昇系の旋回に入っているようなら、位置や角度をよく見極めます。

激しいGをかけて急旋回してくるようなら、こちらはスティックを緩めつつゆっくりと上昇します。

旋回で失うエネルギーが相手より少ないのでより高く上昇できます。

こうして、相手を射程外に引き離し、相手が先に失速したところを反撃に出る作戦です。

 

しかし、WarThunderでは極低速時でも操縦安定性がよい機体も多く、少々引き離しても下方から正確に射撃されることもあり、完全同位の態勢から、安全に吊り上げるためには工夫が必要です。


潜り込み

距離が詰まる前に、相手より200m程度高度を下げて、水平飛行の姿勢で接近します。

交差前、旋回の立ち上がりは、ちょうど、ループ・インメルマンの初期機動を相手より下方で開始する感じです。

このように、相手より低い高度で接近し、交差前にすくい上げるように上昇旋回する初期機動を「潜り込み」と呼んでいます。

順を追って、交差前までの動きとポイントを見てみましょう。

高度を下げた分、こちらと相手の進行方向にはオフセットが生じています。

この高度差は、距離が詰まるより先に前もって作っておきます。

そして、高度差を維持したまま、相手の直下をくぐるような態勢で接近します。

実際には相手の直下をくぐるのではなく、ループ・インメルマンの初期機動を、相手の下方少し手前で始めます。

水平飛行から、相手にぶつけるくらいのタイミングですくい上げるように、強い引き起こしをかけます。

初期機動では相手も高速で飛んでいるので、ぶつけるつもりがあっても、よほどのことがない限り相手にはぶつかりません。

これで、直進する相手機のやや後方を横切るような形で交差することができ、潜り込みの第1段階は成功です。

    

 

次の動画は、このあと、相手がループインメルマンの初期機動をとったところです。

両者の旋回率はほぼ同じです。青のほうが最後のほうでは少しゆるく旋回しているくらいです。
この後、こちらは相手を射撃できるが、相手はこちらを射撃できない位置関係に立ちます。

ループ・インメルマンの初期機動と違い、この潜り込みでは、2回目の交差で明らかに優位に立っています。

潜り込みのポイントは、オフセットした位置から、相手の初期機動より前に、旋回を始めているところです。

こちらが旋回を始めても、相手は旋回を始めていません。

針路がオフセットしているため、相手はこちらの旋回円の内側を、内側に向けて旋回しています。

この2点が意味するところが、お分かりでしょうか。
相手はこちらをオーバーシュートしているのです。

 

(つづく)

潜り込み対策
応用編